高倉健 その魅力
高倉健 その魅力
高倉健 その魅力
高倉健 その魅力

古き良き時代の映画

健さん映画を更に見る

    しがらみを手放す

    なかなかスクリーンに登場しない健さんこと高倉健が6年ぶりの主演映画が2012年(平成24年)8月25日公開された『あなたへ』です。この映画は健さんにとって205本目となる映画で、メガホンをとった監督の降旗康男と組んだ映画としては20作目に当たる映画です。そして映画撮影時に81歳とは思えない、きりっとした姿の背筋の伸びた健さんの姿に魅了される映画です。

    映画の中で『あなたへ』という言葉にはいろんな意味が込められているので、いわゆる『夫婦愛』とは違った作品になっています。もちろん健さんの魅力があふれんばかりの映画ですが、この作品では健さんが車で一人旅をします。その旅の始まり、北陸の富山県から始まり飛騨高山・京都・瀬戸内・北九州・門司港そして長崎県平戸へと巡ります。風光明媚なその土地ならではの映像も魅力のひとつでもあります。

    最初の企画段階の時には、故市古聖智さんが残した原案の段階で、健さんがもう少し若い段階で演じることを前提に大まかなプロットして話は既にまとまっていました。テーマとして刑務所に港。そして玄界灘。一番最初の原案では密輸などのアクションも含まれていたと監督は述べています。健さんは1作品を撮影した後は姿を消してしまう俳優なので、健さんにまずは映画に出演してもらう必要があって前作から6年ぶりとなる撮影ということもあってアクションシーンなどもあったので、健さんの年齢を考慮して原案から練り直していったといいます。

    撮影したときには健さんも81歳です。高倉健さんは今まで205本の作品で演じてきていますが、人間生きていけばしがらみがあって当たり前です。今までいろいろな役柄を演じてきましたが、しがらみのある人生を演じてこられました。この「あなたへ」では、年齢を重ねていく自分を人生のしがらみから解放してあげる。しがらみからの解放という意味では、今までの健さんが演じてきた作品とは違った高倉健さんの姿を映し出しています。

    「あなたへ」が公開したのは2012年8月25日が初日でした。映画公開の翌日8月26日に、高倉健さんは映画のロケ地として協力を受けた富山刑務所を表敬訪問しました。映画の撮影は前年の9月から5日間にわたって撮影が行われました。健さんの「感謝の気持ちを伝えたい」という思いから富山刑務所の再訪が実現しました。

    富山刑務所の講堂では、受刑者350名を前にして「自分は、日本の俳優では1番多く、皆さんのようなユニフォームを着た俳優だと思います」というユーモアを交えながら「『あなたへ』は、人を思うことの大切さ、そして思うことは“切なさ”にもつながると思います」と声を詰まらせながらこの作品を説明して、「1日も早く、あなたにとって大切な人のところへ帰ってあげてください。心から祈っています」とメッセージを伝えました。そしてこの日、富山刑務所内で『あなたへ』のDVDが上映されました。興行中の新作映画が刑務所内で上映されることは極めて異例なことで、東宝配給作品としては初めてのことです。そして刑務所としても初の試みでもありました。

    健さんからメッセージは、言葉は少ないながらでも人を想う健さんの気持ちが受刑者の方へ届いたのではないでしょうか。

    「あなたへ」あらすじ (富山県~門司)

    富山県

    富山県の刑務所で指導教官として勤務しているのは倉島英二(高倉健)です。もうすく定年退職となる倉島英二は妻の洋子を(田中裕子)癌で亡くしてまだあまり日にちも経っていません。

    そんな倉島のもとへNGO法人の女性が尋ねてきます。それは亡くなった妻がNGO法人に生前に二通の絵葉書を託していたものを届けに来たのです。

    二通のうちの一通には「ありがとう」とだけ書かれていて、もう一通には「あなたへ 私の遺骨は故郷の海に散骨してください」とだけ書かれていました。故郷の海へ散骨・・

    妻の遺骨の為にお墓の準備をしていた倉島は、自分のことを全部否定されているように思えて仕方がありません。そして散骨を願う洋子の意志と、託された遺志。その真意を知るために、倉島英二は妻洋子の故郷へ向けて旅へと出かけるのですが、刑務官の仕事を退官した後に妻と二人で旅行するつもりでいたワンボックスカーを改造し、そして亡くなった洋子の遺影を飾っての出発です。

    二人の出会い

    洋子と倉島との出会いは指導教員として刑務所で勤務している富山刑務所です。洋子は歌手で慰問公演で毎年、富山刑務所を訪れて歌を歌っていました。慰問公演で洋子が最後に歌うのは宮澤賢治作詞・作曲の「星めぐりの歌」です。この洋子の歌声に倉島は強烈な印象を残すことになります。倉島は洋子の歌に心を打たれていましたが、その後2年間の間、洋子は慰問公演に出演することはありませんでした。

    倉島が洋子を久しぶりに見かけたのは、富山刑務所が定期的に主催している矯正展での会場でした。家路へと帰ろうとしている洋子を倉島はバス停まで見送りに出ますがそこで洋子に話しかけます。

    「自分も受刑者も洋子さんの歌を楽しみにしていました。慰問に来なくなったことには理由があるのでしょうか?」

    「私が歌っていたのは、ただひとりのためでした。すみません。」

    洋子の答えに倉島は、ある受刑者の最後を思い出すのでした。あの男のために歌っていたのか・・・と。

    それからしばらく時が流れますが、竹田城跡のイベントで洋子と倉島は再会します。少ない観客の中で、さびしそうに洋子は「星めぐりの歌」を歌っていました。やがて演奏が和太鼓演奏に移ったときに倉島は洋子に声をかけます。そのときに洋子は「歌手を辞めようと思っている」と打ち明けます。この日を境に、二人の距離は一気に縮まります。そしてほどなくして二人は結婚します。倉島は50歳になっていました。ある程度の年齢を重ねている二人の結婚だけに、お互いを尊重した結婚生活を送りつつも、二人睦まじく大阪へ出かけたりと慎ましいながらも幸せな結婚生活を送っていきますが、二人に大きな変化をもたらす出来事が起こりました。

    それは洋子の発病です。急性リンパ腫でした。生活は一変しました。そして洋子が退院したら、車で一緒に旅行に行くという約束も果たすことはかなわずに、洋子は逝ってしまうのでした。

    出発

    今までお世話になった上司の塚田(長塚京三)に別れを告げて退職願を託します。定年退職した後に雇用延長の話を固辞してでも妻の真意を確かめるために旅に出る倉島に、塚田は退職願ではなく休暇届けを出しておくと応えました。

    キャンピングカーでの一人旅が始まりました。

    道の駅・ガソリンスタンドと二回顔を合わせた男がいます。名前は杉野(ビートたけし)といって埼玉からキャンピング・カーで来たと倉島に話しかけてきました。

    そして一緒にオート・キャンプ場へ向かいます。倉島が入れたコーヒーを飲みながら杉野は元国語教師で妻を亡くしてから一人旅をしていると話をしながら、山頭火のエピソードなどをひとしきり話をしたあとに「放浪と旅の違いって分かりますか?」と聞いています。

    「旅には目的があれば、目的地もある。終われば、帰る場所もある」と杉野は話し、自分には帰る場所がないことを寂しそうにほのめかしたのでした。

    翌朝倉島が目覚めると、すでに杉野は旅立った後でした。一冊の本がドアノブに掛けられていました。山頭火の句集でした。

    大阪

    大阪へと向かう途中の駐車場で、倉島に一人の男が声を掛けてきます。全国の物産展を廻りながらイカ飯を売っている田宮(草彅剛)と名乗ります。田宮が乗ってい車がバッテリー切れのようだと思うのですが、車は動きません。そこで田宮は倉島に大阪まで乗せてもらえないかどうかと頼みます。

    倉島が了解すると、断れないタイプの人間だと見抜いている田宮は鍋から釜そして食材にいたるまで倉島の車に詰め込んでいきます。そして図々しくも仕込みの手伝いまでも頼みます。田宮の相棒がまだ到着していなかったのでした。倉島はもちろん気持ちよく手伝いイカ飯の販売まで手伝うのでした。

    イカ飯を販売する売り場に遅れてやってきたのは田宮の部下です。部下といっても田宮より年上の南原(佐藤浩一)という男も合流して、目標販売数の2000色を完売することができました。

    その日の夜、倉島と田宮・南原の三人は居酒屋で打ち上げをします。田宮は全国を移動しながら仕事を辛さをこぼしながら、次は北九州の門司での物産展に参加するといって倉島にそれとなく協力してもらえないかなぁ~というニュアンスを醸し出すのでした。

    門司

    関門橋は山口は下関と九州の玄関口である門司をつなぐ橋です。その関門橋が見えるビューポイントで再会したのが、山頭火の話をした杉野でした。杉野のほうから倉島に声を掛けてきたのですが、すぐにパトカーが駆けてつけてきました。杉野は車上荒しで指名手配されていました。

    一緒にいた倉島も警察署で事情聴取を受けることなりますが、警察が富山刑務所に問い合わせをして倉島の身元確認もとれました。久しぶりに上司の塚田とも会話を交わすこともできました。

    逮捕された杉野は車上荒しとしてとても有名な男で、元教師というのも嘘。そして妻に先立たれたというのもすべて作り話のようですが、杉野からのアドバイスが適格だっただけに倉島は複雑な気持ちになるのでした。

    倉島には被害はなく、警察からの事情聴取も終わり警察署を出た倉島は物産展へ顔を出します。物産展では田宮と南原が忙しく働いていました。この夜も3人で居酒屋で飲むことになりました。そしてビジネスホテルで宿泊です。

    倉島はこれから長崎の平戸へ向かって、亡くなった妻の散骨をする話などをしながら3人でお酒を飲んでいくうちに、酒で酔っ払った田宮が荒れていきます。出張の多い仕事に対しての不満をこぼすだけではなく、田宮の妻には男がいるという話をして家庭の事情を話すのでした。自分の妻に男がいるという噂があるけど、妻に男がいるかどうかを確認する勇気がない・・。

    南原が田宮をビジネスホテルに連れ戻そうとするときに、南原は倉島に1枚のメモを渡し、自分が平戸が出身ということを明かして「散骨するための渡船に困ったときには、この人に連絡すればいいという連絡先です」必ず力になってくれるいうことでした。

    人それぞれ苦悩がある。そんなことに倉島は気づかされます。自分だけではなく、杉野にも田宮にも。人には言えない苦悩や悩みがあることに気づかされるのでした。